音楽ライター 高瀬ノイズ氏によるアーティクル掲載

“緊張の糸”をほどく、兄妹ポップの現在地

for bounce style

 

兄と妹――それだけで音楽になるわけじゃない。
けれど、MC兄妹には最初から“会話”がある。

 

MC兄妹は、SEIYA(兄)とAMI(妹)による兄妹ユニット。
掲げるテーマは「世界中の緊張の糸をほぐしにいくぜ!」。その言葉どおり、彼らの楽曲には“力を抜くための音楽”という一貫した美学が流れている。

ヒップホップ由来のMCネームを掲げながら、その実態は純然たるラップ・ユニットというより、ポップ、コミカルソング、地域カルチャー、ネット感覚、そして兄妹ならではの掛け合いが混ざり合う雑食的なポップ・プロジェクトだ。

 

MC兄妹の面白さは、“うまくカッコつけない”ことにある。

 

昨今のJ-POPやSNS発アーティストが、洗練や強い世界観の提示を競うなかで、MC兄妹はむしろ生活の温度や脱力感、ちょっとした可笑しみを前面に出す。
その姿勢は「エビチリ食べたい」のようなユーモラスな題材にも、「エモいぜ曳舟」のようなローカル愛にも表れている。大きな物語を歌うというより、誰かの日常に転がっている感情を拾い上げる音楽なのだ。

 

一方で、その“ゆるさ”は単なるネタでは終わらない。

「手を洗おう feat. mabanua」のような楽曲では、軽やかなメッセージ性と現代的なサウンド感覚が共存する。さらに「ポケットモンスター『1・2・3』Cover」に見られるように、彼らは原曲への敬意と遊び心のバランス感覚にも長けている。
つまりMC兄妹は、“ふざけている”のではなく、真面目に遊んでいるのである。

 

その背景には、兄妹ユニットならではの距離感がある。

男女デュオには往々にしてドラマ性や恋愛的な緊張感が付きまとう。だがMC兄妹にはそれがない。あるのは、長年積み重ねられた兄妹特有のテンポ――少し雑で、遠慮がなく、でも不思議と優しいコミュニケーションだ。
その空気感がライブや映像、SNSにもそのまま滲み出ており、ファンは“完成されたスター像”ではなく、親戚みたいに見守れる存在として彼らに接している。

 

音楽的に言えば、MC兄妹はジャンルの人ではない。
むしろ彼らが属しているのは、“ムード”の系譜だ。

電波ソング、コミックソング、渋谷系以降の軽妙なポップ感覚、ネットカルチャー以降の親密な距離感――そうした文脈をゆるやかに横断しながら、MC兄妹は独自の居場所を作ってきた。
それは派手な革命ではない。けれど、張り詰めた時代において“肩の力を抜ける音楽”を作り続けること自体が、彼らなりの革命なのかもしれない。

 

笑える。でも、ちゃんと音楽。
脱力している。でも、意外と本気。

MC兄妹とは、そんな矛盾をそのまま抱えた兄妹ポップ・ユニットなのである。

 

 
文・高瀬ノイズ
(音楽ライター/カルチャーライター)
 

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